企業内キャリアコンサルタントの苦悩

私は日常、勤務先の会社で社員のキャリアに関する人材開発(教育と研修、面談)を行っている。
具体的に言うと、キャリアデザイン研修、その後の2か月後と1年後の個別面談を行っている。
今月から任意の個別キャリア面談も始まった。
キャリアデザイン研修の目的は「自立的キャリア人材の育成」である。
当社は過去の企業の成長と鈍化の関係で50歳以上の社員比率がかなり多い。
企業から見ると固定費用としての負担が大きい。
簡単に言うと、この層に頑張ってもらわないとコスパが悪くなる。

一般的に企業内キャリアコンサルタントの課題として多いのは、自立的人材の育成をすると育成した人材が会社から出ていく可能性が高くなる。という企業にとっての相反的なジレンマに立たされる。

僕が1年半、キャリア人材開発を行ってきてある程度わかったことは、自主的に自分のキャリアを考えている人については、こんな研修をしなくとも自立的に自分のキャリアを考えているし、自分で会社に残る選択をしているし、出ていく選択も自分でする。
それ以外の層については、研修をしても、そう簡単に自分のキャリアを自立的に考えられない。ということだ。
昨年は52歳から55歳までの社員に対してキャリアデザイン研修(2日間の研修)を実施した。
研修を受けた後には多くの人が、自分の今までの生き方とこれからの生き方に「?」を投げかけている。
ところが1週間もすれば、30年以上続けている習慣に飲み込まれ、研修後の「?」は消えてしまう。
最初の2か月後面談を行ったときには、再度頭を「?」に戻そうとする人が2割程度発生するが、たった1時間の面談では研修後の「?」には戻ってこない人が大勢を占める。
私はキャリアコンサルタント講習で習った面談技法、「相手の考えを受容し共感し」をしていると一向に話が進まない。
つまりほとんどの人は内省するということが慣れていないのか、できない。
意識上の思考で判断している。そもそも悩んでいないのか、なぜ自立的に自分のキャリアを考えないといけないのかその本質がわかっていないのか。

50歳を過ぎた人は、常に会社のために自分の考えや時間を犠牲にしてきた。
会社の成長が自己の成長であり、自分が会社を裏切らない限り会社は自分を裏切らない。という考えのもと生きてきた。
こんな自由な僕にも少なからずそういう思考はあった。

今回実施したキャリアデザイン研修の1年後面談では、「相手の考えを受容し共感する」を捨て、「LIFESHIFTに基づく、自分の60歳以降のキャリアを考えることが最重要だ」という自分の考えをみんなに提案している。
残る会社人生を実りあるものにするためには、自分の60歳以降の姿に希望が見えてこそだと僕は考えた。

ある人は「残る会社人生を会社のために恩返ししたい」
本当にそう思っているのかと思わず疑ってしまう。
だってそのあとに続く言葉が、「なのに会社は僕に仕事を与えてくれない」という。
だったら自分で何をすれば会社に貢献できるのかを考えて実行すればいいじゃないかと思う。
1人でできないのであれば周りを巻き込みやり始めればいいではないかと思う。
そのアイデアもない。指示待ちの典型だ。

ある人は、65歳の再雇用を利用して会社に残る。という。
その後に続く言葉には驚愕した。
「会社は70歳までの再雇用は考えているのか?」
寄りかかり以外の何ものでもない発言だと思った。

中には僕の言葉に共感してくれて、面談の翌日、昨日言ってたことを実行しましたよ。
といって報告してくれる。

小さな一歩でも、何もしないより何かが変わる、あるいは何かが起こるということを僕は彼らに言っている。
大したことがない一歩が、実はこの先自分の人生を大きく変える出来事になるかも知れない。

そして自立的なキャリア人材を育成していくと、会社を離れるのではないか?というジレンマ。
それは、逆に会社が社員に依存している発言だと思う。
自立的キャリア人材を引き留めておける会社としての風土や魅力、成長力があってこその人材開発である。

今後日本の企業は、企業と社員の在り方が変わっていくのか、本当に疑問である。
あるいは、在り方が変わっていくことが今後の企業の成長のカギになるのか。
僕は色んな形の企業の在り方があっていいと思う。

ただ一つだけ思うのは、自分の生き方に基軸を持っていけばいいのかと思う。
寄りかかった会社が倒産したときに会社を責めるのではなく、寄りかかったのだから仕方ないと気持ちを切り替えて新たな寄りかかり先を探す。その覚悟があれば僕はその考え方も否定はできないと思いました。

さて、僕は僕の基軸を探すぞ。

企業内キャリコン/アツシ